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後藤 富士江
栃木県 茂木町在住
1級音楽療法士
自分が音楽療法士として生きてきた意味
■日時: 1990年~現在に至る
■場所: 北海道、栃木県、首都圏、鳥取県等
■対象: 0歳~100歳 身体障がい者、精神障がい者、知的障がい者、高齢者等
■活動内容
1.活動を始めたきっかけ
私は子どもの頃よりピアノに接し、学生時代には声楽を勉強してきました。歌は自分の体が楽器になり、歌っている時は全身の全てが解放され喜びに満ち溢れるのです。その喜びを色々な人と分かち合いたいと思い、音楽の仕事を選びました。
ピアノとエレクトーンの指導者資格を取得し、子どもを中心に指導を続けておりましたが、時代の変化(ゆとりのある人生、長寿社会等)により大人や高齢者も音楽を楽しむ機会が増えてきました。
そこで成人に対する指導に興味を持ち、その資格にも挑戦し習得してきました。今までの幼児の指導経験と得た資格を活かし、地域の方々に何か還元することはないかと考えていた時、出会ったのが音楽療法でした。
まだまだ音楽療法の知名度は低く、どこで、どのように学べばよいか迷いも沢山ありました。友人の紹介で「NPO法人日本ナラティブ音楽療法協会」の理事長大湊幸秀氏に出会いその理念と内容に賛同し、音楽療法を本格的に学び始めたのが活動するにあたっての最初のきっかけです。
2.NPO法人日本ナラティブ音楽療法協会とは
音楽療法については「日本音楽療法学会」を初め様々な団体があります。私が選んだこの協会の名称の「ナラティブ」とは物語という意味です。私は音楽療法士として多くの方々に接し、一人一人に人生の物語があるのに気付きました。
音楽を通してその方達の人生の物語が語られていくのです。その物語の中に少しでもお手伝いできればと思い続けております。
3. 具体的な活動
(1)目的
一人一人の人生(物語=ナラティブ)が違います。KEY WORDSはその一人一人の気持ちを
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思いやる
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感じとる
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くみとる
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心の開放
の4つです。
(2) セッションにあたっての基本方針
音楽療法は楽しい音楽会やコンサートでもありません。またレクリェーションではないということです。一番大切なのは対象者へ音楽の力で心身の健康維持、改善やリラクゼーション等にサポートする事です。それは肉体的、精神的な関わりあいと関係の深い内容になってきます。
セッションではさまざまな内容のもと、各対象者一人一人の顔、態度をじっくりと観察していくように心がけております。音楽療法士として、その場の空気を瞬時に読みとることが一番大切だと思っております。
(3)各対象者へのアプローチと成果
各対象者について a.指導の留意点 b.内容 c.扱う楽器と素材 d.反応の4つに分けてその違いをご説明いたします。
<身体障がい者の場合>
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身体の状況を把握する事。健側、患側をよくみます
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歌唱、鑑賞、会話
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年齢身体状況によってミュージックベルやジャンベ等さまざまな楽器や曲をえらびます
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拘縮(こうしゅく)していた部分が楽になった との声を聞きます。
<精神障がい者の場合>
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パニックにならないように慎重に進めます
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歌唱、鑑賞、リズム打ち
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大正琴を扱います。若い世代の方々でしたので時代にあった選曲をしました
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無反応な方もおりましが、歌唱後はストレスがなくなるとのことです
<知的障がい者の場合>
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子供のダウン症児が対象でしたので、楽しくセッションを心がけました
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歌唱、リズム打ち、体操
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ミュージックベルや小物楽器を扱います。子供の歌、指人形遊び
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飛び跳ねたり大きな声で歌ったり、とても賑やかでした
<高齢者の場合>
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高齢者は様々な経験をされており、色々な病気をお持ちの方が多いです。尊敬の念を持って接します。施設によっては、お客様、ご利用者さんなど呼び方も違います。セッションする前は施設の下調べが重要です
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体操、歌唱、鑑賞、リズム打ち、聴音、模唱、ヘルスリズムス、会話
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歌唱は施設によってちがいます。(軍歌を歌うのは難しい施設もあります)リズム関係は、おなべ、フライパンなど使ってみましたが好評でした
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高齢者は色々な結果が良くでます。よく体が動くようになりました。また、夜はぐっすりねむれる、体がポカポカ暖かくなったとの声を多く聞きます
(4)まとめ
一番大切にしている事は、音楽療法は楽しい音楽会でもなく、厳格なコンサートでもない。ましてやレクリェーションではないということです。
しかし、このような要素を取り入れながらも、一人一人の結果を出さなくてはいけないということです。「結果は何か?」と問われると永遠のテーマですが。
それは、肉体的、精神的な関わりあいと関係の深い内容になってきます。私は、セッション中では、一人一人の顔、態度をじっくりと観察していくように心がけております。
療法士としてその場の空気を読みとることが、一番大切だと思っております。けっして、療法士として自己満足にならないようにと考えております。
4.課題
(1)医療関係者と音楽療法士との融合
この点については様々な意見がございます。私もセッションしている中で本当に音楽療法は身体的、精神的に意味があるのか試行錯誤しています。私の今までの経験から高齢者施設での二つの例を挙げ、皆さま方と一緒に考えて行けたらと思います。
【例1】身体的な障がいがある女性
高齢者ホームでセッションが終わり、女性の方が私の所に歩み寄ってまいりました。その方は酸素のチューブを鼻につけボンベを引いていらっしゃる方でした。
私は気分でも悪くなったかと不安になったのですが、その女性が「先生、実はこの前、病院へいったらお医者様から肺の力が強くなっている。何かしましたか? といわれたので、音楽療法で歌をうたっているからかしらと話をしたところ、お医者様からそうかもしれない、それはいいことだ。たくさん歌いなさいと言われたの」とおっしゃいました。私は声を出すことにこんなにも力があるのかと驚いたものです。
【例2】アルツハイマーの男性
こちらはご夫婦で入居されていた方です。ご主人は私と同じ北海道出身で学校の先生をしておりました。同郷という意味もあり、仲良くさせていただいておりました。
私は全員の音楽療法が終わり、このご夫婦のお顔が見えなかったので、お部屋を訪問したところご主人は声も出さずに静かに眠っていらっしゃいました。まわりにスタッフやマッサージの方がいらしたのですが、声をかけても何も答えません。
その時、奥様が「音楽療法の先生来たよ」と大きな声で呼ばれたので、私はご主人に「○○先生」と大きな声で呼びました。私の声が届いたのか今まで何も発音されなかったのに物凄い大きな声で「うおおおおお」と○○先生は声を出しまわりの人達もびっくりです。
そして奥様が「ほれ、お父さんも、こちらの先生も北海道だ! ソーラン節だ! ヤーレンソーラン ソーラン」と歌い出し私も一緒に「ヤーレンソーラン ソーラン」と歌ったのです。
◯◯先生はその歌に反応し「うおおおおお」、「うおおおおお」とお腹から力づよくこえをだし本当に驚きました。それから数日後、神様のもとに旅立たれたとのことです。
私はターミナルケアの最後はクラシックでバッハかモーツァルトと考えていたのですがソーラン節でした。これも、その方が生きてきた物語なのだなぁと実感いたしました。
以上、医療関係でもない私が経験した二つの内容です。このような結果を医療関係の方にどのように映るのか教えていただきたいと思う日々です。
(2)施設及びスタッフなどの理解度アップ
現在、団塊の世代が後期高齢者を迎え、いっぽう子供達には発達障害などという言葉が世の中に流れています。多くの施設が建ち始めていますが、施設の運営費がかさみ国からの補助が少なく、音楽療法士を雇用していくのは難しくなっています。音楽療法士の多くは介護士を兼任かボランティアになっております。質の良い音楽療法士を求めるのであれば、それなりの対価は必要だと思います。
(3)音楽療法士の向上
さまざまな音楽療法士を私は見てきましたが、とても大事なことは音楽療法士としての技術はもちろんですが、感性を大事にセッションを行うことだと思います。
4.今後の抱負
ハートはいつまでも若くありたいと思っております。今までの経験をもとに、さらに子供達を含め若い方々から新しいいろいろな知識を学んで行こうと思います。一人の音楽療法士として音楽で地域社会に貢献できる喜びを持って活動を続けていく所存です。