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Narrative

札幌医科大学医学部 地域医療総合医学講座

山本和利 教授

・現代医学は、科学的であることにのみ主題をおき、患者自身、あるいは患者の生きた体験や抱える信念を無視する傾向を近年ますます強めている。

・EBMという実践法が唱道されたが、EBMのみでは不十分でありNBMで補完する必要がある。

 

■EBM(Evidence Based Medicine)

 エビデンス・ベイスト・メディスン
 「統計と確率から割り出される治療方針」

■NBM(Narrative Based Medicine)

 ナラティブ・ベイスト・メディスン

 「語り手」と「聴き手」による

 対話を通しての方法論

 

■ナラティブ(物語)を医療に導入する

 理論的背景

 1)物語を話すことは人間の基本的側面

   である

 2)物語としての人生は事実と可能性か

   ら創られる

 3)意味と時間の流れは物語として我々

   の人生と結びつけられる

 4)物語として見る人生は関連する4つ

   の次元を巻込む

 5)我々は個人として、さらに大きな物

   語である背景の中で個人の物語を創

   作する

 

・一般診療現場で役立つ6つのナラティブ要素

  1)会話

  2)好奇心

  3)循環性

  4)背景

  5)共創

  6)慎重性

 

<ある診察室の風景>

親戚に付き添われて遠方から受診した70歳の女性である。

問診票には以下のように書かれている。

 

「息を吸うと苦しい発作が起り、近くの病院を受診した。

喘息と診断され、点滴や吸入療法を受け、緩解すると退院し、増悪すると入院するということを繰り返している。

最近、体がだるく、全身が死にたくなるほど痛む。

精神安定剤・吸入薬等、数種類の薬を持参しており、精査・加療を希望している。

最近、夫と死別。」

 

医師が喘息として対応し、それ以外に精神的問題も考慮して薬物療法を行っていることがこの問診票から窺いしれる。

診察室で付き添いの者と一緒に対話することにした。

患者の話はこんな風に始まった。

「夫が突然亡くなったという話しを聞いた途端に呼吸ができなくなり、入院することになりました」

患者から出た夫という言葉に焦点を合わせて訊くと、

「大酒飲みで、40年間、殴る蹴るが絶えない生活でした。」

話しは次々に先へ先へと移ってゆく。夫からの暴力を受けた場面に話しが入ると、患者の辛さに「大変な人生でしたね」と言葉を挟んだ。

 

話しが終わらず、繰り返し始めたところで、一日の生活について訊いた。

「朝起きて、仏前に水とご飯のお備えをする」

「そして手を合わせてお祈りをする」

「お父さん、あなたがいなくなって私はこんなに幸せでいいのでしょうか」と。

 

医師も看護婦、付き添いとも思いがけない言葉に唖然とした。

この対話の中で患者に気づきが生まれたのだろう。

「もしかして、あなたの心はご主人が亡くなって不幸なのではなく、幸せだったのかも知れませんね。でも身体がそれを受け入れられなくて発作が起るのかもしれませんね。」と私はフィードバックをした。

そのとき、一瞬患者に笑顔が浮かんだ。

患者は、これまで受診した遠方の医療機関で喘息、精神的ストレスとして対応されている。

夫の亡くなったこと、これまでの結婚生活が少なからず影響していることなどから、薬を徐々に減量し、これまでの医療機関で引き続き経過観察を受ければよいことを説明し、診療は終了した。

 

終りに

現代は医療の実践とその機構にとって、不確実性と混乱の時代であるが、このような時代にこそ、「語り」へのアプローチが必要不可欠であると言えるのではないだろうか。

 

 

下記から引用

Evidence-based MedicineとNarrative-based Medicine(NBM)

札幌医科大学医学部地域医療総合医学講座

山本和利

 

※ 山本和利 教授より許可を頂き掲載しています。

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